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責任者:馬場克子
福岡市香椎浜2-6-4-406

FAX:092-672-4186

 
III.総合評価

1.安全度
本試験に際し,SS-7を投与した症例は約1,178例であるがそのうち492例が脱落した。その理由は小児の追跡ができなかった症例が最も多く,続いて飲みにくい,飲み忘れなどであり,副作用や何らかの産科合併症の出現により服薬を中止した症例はなかった。妊娠中毒症の出現はなく,早産の発生率は本邦の一般発生率より少ない傾向にあった。母体,ならびに児に対する安全度は高いものと評価できる。
2.総合評価
経産婦の前児にアレルギー疾患が出現した症例で,今回SS-7服用後のアレルギー疾患発生率は39%と減少していた。以上を勘案して有用度は高いものと考えられる。


IV.考 察

近年の医療技術の発達は原因の明らかな疾患に対しては飛躍的な発展を遂げた。しかし,アレルギー疾患や癌などのようにその原因が明らかでないか,その原因が多岐にわたる疾患では西洋医学の一元的対応では完治せず,再発例などでは症状緩和療法が行われている。特に,アレルギー性疾患ではステロイド療法が一時的に効果を発揮するが完治するには至らず,その長期使用は種々の副作用をもたらすため使用の是非が問題となっている。最近,このような疾患に対し漢方療法を含む代替医療が見直されているがその詳細な検討は少ない。そこで今回,免疫賦活作用,肝機能改善効果や抗アレルギー効果が期待されているモル トハーブ酵母を母体に投与することにより,母体の体質改善を図り,母乳の成分の変化を期待し,出生する児のアレルギー発症を押さえられるかどうかについて検討した。
モルトハーブ酵母(SS-7)はサッカロミセス属の酵母Saccharomyces cereviciaeに,ハーブのcentauriumを加え,麦芽汁中で発酵培養し,熱処理を加え乾燥粉末化したものである。本製剤はドイツにおいて開発製造されたもので,その製造方法と成分表を
(表10)に示す。その成分はビタミン,ミネラル,食物繊維を多量に含んでいる酵母である。
ビール酵母は医療に用いた歴史は古く紀元前にその記録があるといわれている。乾燥酵母には免疫賦活作用,抗炎症作用,肝臓薬,整腸薬として有用性があると報告されている。centauriumは欧州では古くから健胃,整腸,肝臓疾患に良いとされている伝統薬ハーブであり,セコイドイド配糖体を含有している。SS-7は肝炎の改善,アレルギー症状の改善を期待し開発された栄養補助食品である。
母体にアレルギー素因があるとその児にアレルギー疾患を発症する相対危険度は高いとする多くの報告があり,Rautavaら8)の報告では母体にアレルギー素因があるとその児のアレルギー発症率は55%と報告している。今回の研究に参加したアレルギー素因のある経産婦のなかで前児にアレルギー疾患の出現率は64%と非常に高率であった。これは今回の研究の性格上,初産婦は母体自身にアレルギー素因がある症例が,また,経産婦では母体にアレルギー素因があるか前児にアレルギー疾患が出現した妊婦が多くエントリーしたものと考えられる。このようにアレルギー素因のある母体から出生した児のアレルギー発症率は高いが,初産婦にSS-7投与した後の児のアレルギー発症率は母体のアレルギー素因の有無に関係なく20%前後であった。このことはSS-7がアレルギー素因のある母体から出生した児のアレルギー疾患の発生率を減少させた可能性が示唆される。アレルギー素因のない母体から出生した児に20%のアレルギー疾患が出現したことは軽微な喘息様気管支炎,軽微な鼻炎などの症状を示した症例もアレルギー疾患有りと評価したためと思われる。また,Bergmannら9)はアトピー性皮膚炎や喘息様気管支炎などは母体の影響を受ける可能性が高いが,アレルギー性鼻炎などの一部のアレルギー疾患は母体の影響を受けないとしており,このような疾患については,有効性が低いものと推測した。
経産婦でSS-7服用後の児のアレルギー発生率は母体アレルギー素因の有無にかかわらず前児のアレルギー発生率と比較して有意に低下した。また,アレルギー素因のある経産婦で前児にアレルギー疾患が出現した症例は250例でSS-7服用後は98例(39%)と有意に減少した。これはSS-7投与の有用性が示されたものと考えられる。初産婦の母体アレルギー素因がない症例,経産婦でアレルギー素因が存在したが前児にアレルギー疾患がない症例,経産婦で母体にアレルギー素因がなく前児にもアレルギー疾患がなかった3群の今回の児にアレルギー疾患の発現率は約20%であり,母体アレルギー素因の関与しないアレルギー疾患の存在が示唆されたがその詳細は不明である。
モルトハーブ酵母はその30%が食物繊維であり,良質なアミノ酸を多量に含み,かつ還元型グルタチオンなどを多量に有している。また,centauriumの主成分はセコイドイド配当体,キサントン誘導体,トリテムペンおよびフラボノイドなどであり,これらのどれがそのような作用を有するかは今後の研究を待たねばならない。Bjorkstenら10)はエストニアとスウェーデンの2歳の子供のアレルギー疾患の有無と腸内細菌叢の検討でアレルギー疾患の発症はスウェーデンの子供に多く,アレルギー疾患を有する子供たちは乳酸棹菌値が低く,好気性菌が多いことを報告している。モルトハーブ酵母はその主成分である食物繊維が整腸作用を有し,腸内細菌叢を改善することが知られている。以前のC型慢性肝炎症例に投与した検討では有意に便秘症の改善を認めた7)。今回は詳細な検討はしていないが便秘症に有効であったという意見が多かった。
新生児期から乳児期にかけての免疫防御機構は未熟であり,母親の乳腺を介した防御システムが存在する。母体は食餌性抗原物質に対して消化器系,呼吸器系にmucosal immune systemが存在し,一旦,抗原刺激を受けるとリンパ芽細胞が活性化され胸管を経由して抗原刺激部位や乳腺などの粘膜部位へ戻り,特異的な分泌型IgAを産生する。腸管からのTGF-βはこの特異的IgAの産生を促し母乳中に多く移行し,特に初乳に多いことが報告されており,感染防御に対しては重要な役割を演じている。また,この初乳中のTGF-βが特異的IgA抗体を産生し,アレルギー疾患の防止に対して重要な役割を演ずることも示唆されている。モルトハーブ酵母の整腸作用や腸内細菌叢の改善により,母乳中のTGF-βが増加し,出生児のアレルギー発症予防に繋がるものと推察される。
Prescottら11)はアトピー疾患がない子供は年齢とともにTh2が減少し,アトピー性疾患を有する子供は逆のパターンを示し,Th2が有意になることを確認している。それゆえに児の免疫応答はTh1とTh2構成バランスの歪みがアトピー性疾患発症に重要であると報告している。モルトハーブ酵母には酵母とともにcentauriumの成分が含まれ,両方ともに免疫賦活作用があることが示されており,直接免疫系に作用する可能性も考えられる。
生後早い時期にアレルギー皮膚炎を発症した児の臍帯血IgEが高値であることから胎内での感作を指摘する報告や母体血IgEと子供のアレルギー疾患の関連性を指摘する報告があるが最近のBergmannら9)の検討では臍帯血IgE抗体濃度と児のアレルギー発症率の関係は非常に弱いと報告している。我々も母体血ならびに臍帯血のIgE抗体を測定したがその再現性に乏しく一定の傾向を認めなかった。 今回の検討で母親によるアンケート調査では子供のアレルギーに対してよいと答えた人が53%であった。アレルギー症状の重症度は検討していないが前児のアレルギー疾患より症状が軽いとする意見が多く,その有用性は高いものと考えられた。 母乳栄養は児の栄養源とともに感染防御の観点からも非常に重要であり,また母と子の絆という意味でも重要な役割を果たしている。母親のアレルギー素因や母乳栄養は児のアレルギー発症に影響を及ぼすと考えられるがSS-7はその発生を抑制できる可能性が示唆された。しかし,そのメカニズムについては不明な点が多く今後の検討が必要である。
図    

表10

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